肺がん患者「自家移植」 岡山大病院が成功

 岡山大病院は2日、肺がん患者の片肺をすべて摘出し冷却保存した状態で患部と周辺を切除後、肺を体内に戻す「自家移植」手術に成功したと発表した。執刀した呼吸器外科の大藤剛宏講師によると、肺の自家移植成功は国内初で、冷却保存したケースは世界初。
 肺を戻すことで術後の呼吸機能の低下を抑制。冷却保存は一般の臓器移植で用いられている技術で、摘出した肺の機能を一時的に保持し、より安全な移植につながるという。
 今回の手法は肺の全摘に耐えられず手術をあきらめていた進行がん患者に役立つとみられ、治療の選択肢を広げると期待される。
 患者は広島県の60代男性。右肺中枢部などでがんが進行し、病巣のみの切除は難しく、右肺の全摘が必要と診断。摘出すると息切れするなど生活の質が低下するのが特に問題だった。
 6月中旬の手術では、全摘した右肺に移植用の保存液を注入し、約8時間の保存が可能になる冷却処理をした上、がんを取り除き、病理検査でがんがないことを確かめた肺下部だけを体内に戻した。男性は約70%の肺活量を確保、既に退院し趣味のゴルフなどの運動もできるという。
 国立がん研究センターのデータ(2008年)では、肺がんで年間約6万6000人が亡くなっており、がんの中で、男女合わせて死亡者が最多。
 同病院によると、海外では肺を摘出後、冷却保存せずに一部を自家移植した例があるが、肺は摘出して血流が遮断されると、体内に戻しても働かない可能性がある。大藤講師は会見で「移植しても機能しないことがないよう、丁寧に肺を保存した」と話した。自家移植は自分の組織を戻すため、拒絶反応が起きない利点もある。