−30年で死亡数倍増

食道がん内視鏡治療をする土田知宏医長(右)=東京都江東区癌研有明病院
 食道がんの治療で、ミュージシャンの桑田佳祐さん(54)が手術を受けた。音楽活動に復帰した指揮者の小沢征爾さん(74)も、同がんで手術を受け療養中だった。食道がんは治療が難しいといわれる。治療法、予防法などを確認した。 (杉戸祐子)
 食道はのどと胃をつなぐ管状の臓器。「食道にできたがんは早期から転移しやすく、治療が困難になりがち」。東京大医学部付属病院の中川恵一准教授(放射線科)は指摘する。
 転移しやすいのは「がん細胞を全身に運ぶリンパ管や血管が周りに豊富にあるため」。「食道は胃などと違って臓器を包む膜がないため、がんの“防波堤”がなく、周辺に広まりやすい」と説明する。
 厚生労働省によると、食道がんによる死亡数は一九七五年の四千九百九十七人に比べ、二〇〇八年は一万一千七百四十六人と三十年余りで二倍を超えた。現在、年間約一万八千人が食道がんにかかる。男性に多い。
 一般的な治療法は外科手術だ。日本人に最も多い胸部の食道がんの場合、「開胸して、がんのできた食道とリンパ節を切除し、胃をつりあげて残りの食道とつなぎ、食べ物の通り道を再建する」と中川准教授。「手術工程が多いため、六〜八時間がかりの大手術になる場合が多い」。食道は声帯を動かす神経と近接しており、「手術後に声がしゃがれる場合もある」。
 中川准教授は「食物を少しずつ腸に送り出す胃の機能がなくなって、腸に一度に食物が流れるため、消化・吸収が追いつかず、体重が大幅に減る場合が多い」と解説する。
 国立がん研究センターがん対策情報センターによると、がんのリンパ節転移がなく、四層構造の食道組織の内側から第二層(粘膜下層)にとどまる場合の外科手術の五年生存率は80%。日本食道疾患研究会(現・日本食道学会)の調査では、リンパ節転移がなく、第一層(粘膜)にとどまる場合の同生存率は69・8%だ。
 一部の医療機関では胸腔(きょうくう)鏡・腹腔(ふくくう)鏡手術も実施されている。開胸しないため体への負担は軽減できる。桑田さんも腹腔鏡治療だったことを明かした。

 体の負担が少ない治療法は、内視鏡によるがんの切除だ。早期がんが対象で、口から内視鏡を入れてがんだけ取り除く。
 癌研有明病院(東京都江東区)では、内視鏡による治療を年間約九十件実施している。消化器内科の土田知宏医長は「五年生存率はほぼ100%」と語る。対象は大きさが五センチ以内で最も内側の第一層にとどまるがん。治療翌日から流動食を食べられる。土田医長は「対象は限られるが、食道が残るのは大きなメリット」と指摘する。
 抗がん剤放射線治療の併用療法も、外科手術などと同等の治療成績が得られることがわかってきた。東大医学部付属病院では年間約三十件を実施する。
 利点は「通院治療中は普通に食べられる。声には影響がなく、やせることもない」と山下英臣助教放射線科)。逆に「照射による粘膜炎で痛みが出ることが多く、放射線による肺炎にも注意が必要」とデメリットも明かす。同院の治療成績は「外科手術とほぼ同程度」だ。
 治療の基本は早期発見。主症状は食道に「しみる感じ」やつかえだが、初期は無症状がほとんど。内視鏡検査が有効だ。食道がんの危険因子は「酒とたばこの合わせ技」と中川准教授。「飲むと顔が赤くなるタイプの人が多量に飲むと、リスクが一気に上がる」。土田医長は「リスクの高い人は年一回の内視鏡検査を」と呼び掛ける。東京新聞(2010年8月31日)