−地域で支えていきたい 

 住み慣れた地域や自宅で、がん治療を受けたい。人生の最期は家でみとられて迎えたい。そんな患者の願いに応えているのが、開業医が24時間対応する「在宅療養支援診療所」だ。
 国のがん対策推進基本計画は在宅医療の充実をうたい、2006年度の診療報酬改定で制度化された。全国で1万1500カ所が届け出ているが、実際に24時間体制で往診できる所は、そう多くない。経験を積んだ在宅医の熱意に支えられているのが実情だ。
 安心して在宅医療を選択できるようになるには、後方支援する医療機関や看護拠点、薬局などが連携して地域医療体制を整えなくてはならない。底辺拡大に向けた取り組みを急ぎたい。
 厚生労働省によると、診療所は7月現在、東京都に約1000カ所あるが、福島県170、宮城県115、山形県77、秋田県67など地域で偏在がある。
 宮城県対がん協会に設けられた在宅療養支援センターは患者から相談を受け、最寄りの診療所を紹介する役割を担うが、まだまだ数が足りないという。
 診療所には(1)別の医師と連携し、24時間往診が可能(2)近くの訪問看護ステーションとの提携―などの機能が求められる。
 夜中に患者の容体が急変し、主治医が不在でも代わりの医師が看護師と共に駆け付けられる態勢を常に組んでおかなくてはならない。精神的な苦痛を和らげる緩和ケアに通じ、痛みに合わせたモルヒネなど医療用麻薬の投与も行う。生半可な気持ちでは始められない仕事だ。
 宮城県の年間がん死亡者は約6200人。このうち在宅で亡くなったのは670人。みとり率10.8%だった(08年)。
 全国の傾向もほぼ同様で、約9割は病院で死亡している。「家族に迷惑を掛ける」「病状急変の際、往診に来てくれる医師が近くにいない」というのが理由で、一度自宅に帰っても、また病院に戻るケースが多い。
 こうした中、10年以上前から医療関係者がチームを組んで迅速に対応している例もある。角田市など宮城県南部を往診する「仙南地区在宅ホスピスケア連絡会」。主治医、看護師、緊急入院先の支援病院、薬剤師に加え、介護支援専門員らが手引書を作って情報を共有している。
 連絡会前代表の安藤ひろみ医師(角田市)は「それぞれの専門家が手をつなぐことで厚い支援ができる。在宅医を増やすだけでなく、地域の核となる医師の実働率と支援の質を上げることが大事」と語る。
 がん患者の増加、医師不足地域の病院無床化などで今後、空きベッドは足りなくなるといわれている。患者と家族が納得のいく治療を地域で受けられるネットワークづくり、専門スタッフの養成が待たれる。2010年08月16日月曜日