−がん診断時からのピアサポート

 愛知県の患者支援団体NPO法人ミーネットらが主催する「がんになっても安心な街づくりシンポジウム実行委員会」が、2010年10月23日、名古屋市立大学病院内でシンポジウムを開催しました。このシンポジウムは、当機構の地域発がん対策市民協働プログラム「愛知発:ピアサポートプロジェクト〜がん診断時からのピアサポート・モデル事業〜」の一環として開かれたものです。がん患者・家族や医療提供者、愛知県議会議員名古屋市議会議員など約300人が参加し、会場は、愛知県や名古屋市のがん対策を向上させようという熱気に包まれました。
  「患者さんは、同じ種類のがんの体験者である“ピアサポーター”の支援を受けることで、自分の治療に前向きに取り組めるようになっています。そして、ピア サポートによって患者さんも自分のがんを学びますから、医師も患者さんとのコミュニケーションが円滑になり、治療に専念できるようになります。ピアサポー トは、医師と患者双方の役に立つ効果があります」。
 シンポジウムでは、最初に、がん診断時からのピアサポート・モデル事業の、名古屋市立 大学大学院人間文化研究科の大野裕美さんが、ピアサポートの効果と同モデル事業について紹介しました。名古屋市では、2009年3月、NPO法人ミーネッ トが市との協働で市の中心部に「名古屋市がん相談情報サロン・ピアネット」を開設し、がん種別の患者会ピアサポーターによる相談支援を実施。ピアネット では、開設1年で1789件の相談があったといいます。また、ミーネット主催の「ピアサポーター養成講座」では3年間で90人のピアサポーターを養成して おり、がん診療連携拠点病院でも出張ピアサポートを行っています。
 次に、当機構の埴岡健一が、「愛知のがん対策、今までとこれから」と題して講演しました。
「愛知県はがん対策推進計画の水準は高かったのですが、2008年度の人口100万人当たり都道府県がん対策予算は他県に比べて少ない。名古屋があるから 進んでいると思われているかもしれませんが、実は県内の病院の機能・体制には格差があります。患者、市民、議員、行政、医療関係者、マスコミ、企業、いろ んな立場の方々が一緒に取り組まないとがんとは闘えない。地域で一体となって活動すれば、愛知県のがん対策は大きく進むのではないでしょうか」と、がん対 策条例や患者参加型のがん対策推進協議会など他県の先進事例を紹介しつつ愛知県の課題を提起しました。
 これを受けて、「名古屋市がすすめる『がんになっても安心』な街づくり」をテーマに講演した名古屋市病院局長の上田龍三さんは、自己負担500円のワンコイン検診、ピアネットの開設など同市の先駆的ながん対策に言及しながら、次のように強調しています。
 「がんはすべての国民の問題です。患者さんががん難民になったらパートナーも家族も一緒に難民になります。県のがん対策推進計画が実行できるように本当に頑張らなければいけません」。
 最後に、「がん患者さんの安心のために、いま進めること」をテーマにパネルディスカッションを行い具体的に愛知県で何ができるかを議論しました。
 NPO法人ミーネットとの協働で月2回ピアサポーターによる相談会を実施している名古屋医療センター相談支援センター主任の山田悦子さんは、「ピアサポー ターに話を聞いてもらうだけで安らぐという声を聞いています。プロの相談員の立場とピアサポーターと協力しながら患者さんを支えていけたら」と話しまし た。
 また、名古屋市立大学病院化学療法部部長の小松弘和さんは、「経験者しか分からない問題があるので、病院のなかにどんどん入ってきてほしい。ピアサポーターと医療提供者が対等な立場で討論できる形が必要」と訴えました。
 フロアからは、「患者さん、医療者、市民の方々を含めて、ピアサポーターの制度自体を知らない。早い段階で、サポーターの存在を知らせていく必要がある のではないでしょうか」「専門家の方々が患者・市民の力が大切だと共通して言われていて感激しました。」といった意見もありました。
 一方、名古屋市立大学病院緩和ケア部部長の明智龍男さんは、「精神科医として患者さんの心のケアを行っているが、患者さんが抱えているのは心の問題だけ であることはほとんどなくて、体のこと、社会的なこと、経済的なこと、いろいろな側面が関係することを実感しています。今日は、自分自身がいつの間にか医 療という閉鎖的な状況でしか考えられていなかった面もあると反省しました。いきなり六位一体ではできないかもしれませんが、地域で、医療の多職種と患者さ ん・ご家族、メディア、行政の方を入れた話し合う場を設けることがまず第一歩になる」と発言。上田さんも「地域の時代であり、名古屋市から愛知県からみん なで一緒にがん対策をやっていこう。今日はそういう場であったとお互いに認識し合いましょう」と呼びかけました。これを機に、まずは名古屋市で患者・家 族・市民と医療者、マスコミ、議員、行政が連携してがん対策、がん医療を向上させる場づくりが進みそうです。
 会場には、名古屋市議会議員14人、愛知県議会議員2人が来場しており、特に名古屋市議が議員提案でのがん対策条例づくりに強い関心を示す場面がありま した。実現すれば、県と同じような権限を持つ政令指定都市初のがん対策条例となる可能性が高く、今後の動きが注目されます。 (ライター 福島安紀)