−肺がんレントゲン診断の現実

男女をあわせたがん死亡率では、肺がんが1位となっていて、この肺がんを早期発見する目的で、レントゲン検診が行われている。しかし、実情を最もよく知る現場の外科医は、「レントゲンですと、検診していても、早期で見つからない」と話した。
日本人の多くが知らないレントゲン肺がん検診の現実、がん医療の最前線から、1人の外科医が警告する。虎の門病院呼吸器センター外科部長の河野 匡医師の元には、全国から肺がん患者が手術を受けに集まってくる。
5年生存率の世界平均およそ70%に対し、河野医師は90%以上となっている。しかし、この手術を受けるためには、欠かせない条件がある。
河野医師は「早期発見しないと助からないですね。転移しないうちに見つけて手術するっていうのが、一番のポイントですね」と話した。
喫煙歴40年の男性は、肺気腫にかかり、その検査で偶然、右の肺におよそ2cmのがんが発見された。肺気腫と肺がんの男性(60代)は、「なんていうのかね、もうこうなってみてやっぱり、たばこってのは、こんなにおそろしいものはないって痛感したね」と話した。
一般的な肺がんの手術では、20cm前後を切開し、ろっ骨を押し広げるか切断して、執刀医が手を入れるスペースを確保する。患者は、強い痛みなどの後遺症をともなうことが多い。
そこで河野医師は、アメリカに渡り、患者の負担が少ない内視鏡を使ったVATS(Video Assisted Thoracic Surgery・バッツ)を独自に確立させた。VATSは、1cm前後の穴3カ所から、小型カメラの内視鏡と手術器具を入れ、モニター画面を見ながら行う手術で、傷口が小さいために後遺症が少なく、回復が早い。
しかし、マジックハンドのような器具で、複雑な処置をする高度な技術が医師に要求される。内視鏡の映像を目に、河野医師は「この黒いのは、たばこ(の影響)ということになる。こういう黒いの。(健康な肺の人にはない?)こんなのはないですよね、たばこを吸わない人は」と話した。男性のがんは、右肺の下葉と呼ばれる部分にあるが、肺と胸膜の癒着がひどく、これをはがす必要が出てきた。
VATSの場合、拡大映像を見ながら作業できるため、肉眼よりも安全で確実だという。河野医師は「この手術っていうのは、目が胸の中にあるような感じなので、癒着をはがすには有利なんですよね」と話した。肺がんは、リンパ節から全身に転移するケースが多い。そこで河野医師は、まずリンパ節を取り除く方針をとっている。
河野医師は「黒く見えるのがね、これが肺のリンパ腺なんですよ。万一、リンパ腺にがんが転移していても、一緒に取れちゃう」と話した。そして、がんがある右肺の下葉部分を切除して、穴を3cmほどに広げ、がん細胞が周囲に飛び散らないようビニールパックで包み、患者の体内から取り出す。河野医師は「ここのところが、がんのところですね。ここのところです、ちょっと盛り上がってるでしょう」と話した。
2時間40分で手術が終了し、それから6時間後、すでに男性患者は夕食をとっていた。回復の早さが、VATSの最大のメリットだという。河野医師は「癒着も多くて、手術としては、どちらかというと大きい手術だったかもしれないですけど。回復も早くて、順調にいけると思いますね」と話した。手術から6日後、男性患者は、自分の足で力強く歩いて退院していった。
肺がん手術にVATSを導入する病院は増えているものの、まだまだ技術格差が大きく、右肺に早期のがんが見つかった女性は、安全性に定評のある河野医師を頼ってきた。河野医師は「今回の病変なんですけれど、レントゲンでは、はっきり映らない。くわしく見ていただくのに、CT(コンピューター断層撮影)の検査というのをしていただいております」と話した。
女性はCT検査で、左の肺にも小さながんが見つかった。このような場合、従来の手術では、2回に分けて行うのが基本だが、これに対し、体に負担の少ないVATSは、同時に手術が可能だという。手術からおよそ1カ月、リハビリに励む女性の姿があった。2つの肺がんを摘出した女性は、「あっ、よみがえったんだなという感じですね。階段を駆け上がったら、苦しいんじゃないかと思うんですけど、やってみます?」と話した。
早期なら短期間で完治できるようになった肺がんだが、手術の対象にならない患者の5年生存率は、わずか数%だという。河野医師は、レントゲン検診だけでは、早期発見に不十分であると警告する。河野医師は「きょう、外来で見えた方もですね、2月に健康診断でなんともないと言われたと。9月にCTを撮ったら、5cmのがんなんですよ。見落としだと思いますね。レントゲンは、それ自体、ある程度の限界があって。レントゲンっていうのは、胸から背中までが、ずいぶん重なって見えてしまうわけですね。前側のろっ骨と背中側のろっ骨と鎖骨が全部、重なって見えたりします。こんなところにがんができたって、わからないんですよね。運がよければ見つかりますし、運がよくないと見つからない」と話した。早期発見が命の明暗を分ける肺がん、生き残るために知るべき現実がある。FNNニュース(11/30 00:58)