−がん対策協 報道その1

 がん患者らの声を政府の対策に反映させるために設置された厚生労働省の「がん対策推進協議会」の運営が迷走している。19日の会合で患者委員の一人が「十分に意見が反映されない」と、協議会への失望から会長の“解任動議”を提案する前代未聞の事態に。動議は否決されたものの、患者らの意見を受け止める組織で、意思疎通のまずさが浮き彫りになった。
 問題を指摘された厚労省は次期計画の策定に向け、協議会の開催回数を大幅に増やすなど運営を見直す方針だが、人員不足などで難航も予想される。
 「存在理由を否定された気がした」。19日に都内のホテルで開催された協議会で、患者委員である郷内淳子さんは「協議会の意見が国のがん対策に十分に反映できそうにない」という理由で会長の垣添忠生・旧国立がんセンター名誉総長の解任を提案した。
 発端は先月開催した協議会。5カ月間も開催されず、その間に厚労省が来年度の概算要求でがん対策予算を提出していた。患者委員が「概算要求は協議会からの意見を十分に反映していない」と指摘すると、厚労省側は「法律上は協議会には(5年に1度検討する)がん対策推進基本計画の意見を聞く以外に業務はない」と権限を限定的に説明した。
 「解任動議は会長が憎いわけではなく、協議会への失望感が根底にある」。婦人科がんの患者会代表を務める郷内さんは「患者委員は多くの仲間を失い、責任ある発言をしなければならないという気持ちで出席している」と、より患者の声が反映されるよう運営の見直しを求めた。
 突然の委員からの抗議に厚労省側は「解任動議は前代未聞。政令などで解任できる規定もない」と困惑。他の委員から「運営は厚労省側の問題であり、会長は継続してほしい」との意見も多く、採決の結果、郷内さん以外の患者委員を含めて継続を認める委員が大半を占め、動議は否決された。
 20人中5人を占める患者委員以外にも運営に対する不満は強い。このため同省は今後、月1〜2回程度のペースで集中審議する案を提示。次回は12月10日に開催し、がん診療連携拠点病院のあり方について議論する方針。
 このほか新たに専門分野を議論する委員会を設置するなど、同省は2012年度から始まるがん対策推進基本計画に加え、同年度予算の概算要求で反映できるよう協議会の意見を聞く体制を強化する。
 解任動議は否決されたが、垣添会長は「身を引かせていただく」と辞意を表明。自らもがんを経験し、妻をがんで失った立場で尽力していただけに、患者委員からの解任動議に衝撃を受けたようだ。厚労省側も体制強化するためには人員不足が目立ち、十分対応できない可能性もあり、今後も協議会が紛糾する可能性がある。