−がん対策協 報道その2

(Dr.中川のがんから死生をみつめる:/84 対策推進へ政府は本腰を=毎日新聞 2010年11月28日 東京朝刊)
 07年4月に施行された「がん対策基本法」の実現を目指す「がん対策推進基本計画」では、2大目標として、がん患者の皆さんと家族の生活の質の向上、がん死亡率の2割減を掲げています。
 さらに、遅れが目立つ放射線治療や化学療法、痛みなどがんの症状をとる緩和ケア、がんの客観的なデータを集める「がん登録」が、三つの重点課題となっています。
 また、この法律では、がん対策の要として、医療者や有識者のほか、がん患者・家族も委員とする「がん対策推進協議会」の設置を定めています。僕も委員の一人です。患者の皆さんの声を政策に反映するこの仕組みは画期的といえます。
 法律では、基本計画を5年ごとに見直すとしていますので、協議会でも2年後の見直しに向けた議論を始めようとしています。ところが、今月19日の協議会では、患者の委員から「がん対策に患者の意見が反映されていない」「協議会の運営に問題がある」などとして、会長の解任を求める動議が出される騒動が起きました。
 がんをめぐる問題には、患者・家族、医療者、行政、製薬会社、患者会などが、さまざまな立場からかかわっていますが、それぞれが個々の利害にとらわれず、患者の皆さんの意見を聞き、国民全体を考えたバランスのよい対策作りに力を結集する必要があります。今回は、アンバランスな現状への問題提起だったとも言えるでしょう。
 がん対策は「待ったなし」です。がん研究や小児がん対策に関する専門委員会の設置や放射線治療、緩和ケアの集中審議など、課題は山積しています。協議会の空転は許されません。今後も患者の皆さん、国民の視点に立った議論を進めなければなりません。しかし現実には、議論をまとめ、実行する予算も人員も不足しています。がんの医療費は全体の1割程度にとどまりますし、がん対策を束ねる厚生労働省のがん対策推進室の人員は9人にすぎません。
 政府が、本腰を入れなければ日本は「がん対策後進国」のままになる恐れがあります。国民の皆さんも、政府の背中を押すことができます。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)